国立伝統芸術センター 主任 陳悦宜
指先に宿った生命、土地が生んだ芸術
木のベンチに座って、戯台※で展開する人形の絶妙な動きを見るのが幼い頃の一番の楽しみでした。人形師の指先から人形に命が吹き込まれ、人の技術と人形の生命が一体となる、そのような指先の生命力は先住民族の生活から生まれ芸術へと昇華したものです。深く大地の記憶が刻まれています。
今回、日台合作の『布袋劇・劈山救母』は台湾伝統布袋劇と日本江戸糸あやつり人形劇が、共通の芸術の異なる技術で共演するという、まさに文化交流の極みだと思います。今後も日台伝統芸術が切磋琢磨する機会が増え、未来に向けて共に創造し、文化交流の礎になってくれることを心から期待します。
キュレーターのコメント
林 于竝氏
それぞれの伝統芸能はその生まれた土地に根付いています。地元の生活と土地と深い関係があります。音楽と音声、言語の韻律、色彩感覚及び身体リズム、お互い緊密に関連していて、独特な表現の仕方が構成されるようになりました。布袋戯は台湾人にとって最も人気のある伝統パフォーマンスで、どこでも見られます。生き生きとする喋り方及びにぎやかな生演奏、台湾人みんなの記憶になりました。今まで387年の歴史を持つ結城座は江戸時代以来人々に愛されています。人形を操作する方法、音楽の曲作り、表現者の呼吸などの表現の仕方からみて、台北木偶劇団の布袋戯と結城座の江戸糸あやつり人形と同じ舞台での共演は確かになかなか難しいことです。しかし、「大衆性」は両者の共通点とも言えます。それらを大衆に愛され、庶民生活の一部で、時代の変化を反映し、新しいものを受け入れています。その点からみて、大衆芸術はもっともグローバル性があるものです。台北木偶劇団と結城座の共演を通して、共演舞台の上での交流は、日本と台湾の生活の感受性ともいえるでしょう。
団長のあいさつ
台北木偶劇団は、伝統芸術の伝承、人形劇の表現技術の向上、国際的な舞台に乗れる台湾人形劇を創造を行う台湾先鋭の演劇団体だ。確固とした台湾伝統文化を基に異なるジャンルの芸術家と地域を超えた交流を行い、台湾新伝統文化の創造を試みている。
2020年、国立台北芸術大学の林教授の推薦で、台湾文化部主催の「日台文化交流プロジェクト」への参加が叶い、日本演劇界の戦後第一世代の重要人物で「黒テント」の創立者である佐藤信さん、江戸から現在まで300年以上の歴史を持ち無形民俗文化財指定である日本伝統江戸糸あやつり人形劇の結城座と知り合うことができた。当団にとって初めての台日共同創作となった。台湾の伝統芸術が言語と文化の違いを突破し、新しい創造と表現芸術で国際的な観客に対する。台湾の伝統布袋劇が日本の伝統江戸糸あやつり人形劇と結びつき、お互いの伝統を用いた実験的創作が実現だ。
しかし世界的な新型コロナウィルスの影響で現在まで延期となってしまった。互いに今回の合作をとても重視し、連絡を絶やさず、リモート会議などを経て今年2022年のコロナウィルス政策の緩和を期にやっと作品が姿を現すことができる。作品は『八百屋お七』“火の見櫓の段”をプロローグに、十二代目結城孫三郎さん(現十三代目両川船遊)が一人の人形遣いとしての悲哀を日本的手法で演じ、そこに台北木偶劇団の若い人形遣い呉馨傑が現れ、巡り会う。呉は伝統布袋劇『劈山救母』を披露し、孫三郎さんは新たに人形劇への情熱を取り戻し、伝えていくことこそ大切であると誓う。
この合作は台湾伝統芸術の多元的魅力を伝えたり台湾伝統芸術の国際的普及だけでなく、交流と切磋琢磨の間に生まれる火花に楽しく深い思い出を残すと思う。これからも末長くお付合いいただき、日本と台湾の実りある芸術交流が続いて行くよう期待している。
主演のあいさつ
今回の主演を務めることになりとても嬉しいです。演出家の佐藤信さんや結城座の皆さんとの合作はとても有意義です。私たちは台湾伝統の布袋劇、結城座は日本伝統の江戸糸あやつり人形劇、両国の伝統人形劇が共に演じることで絢爛な火花が弾け、言葉が通じないことも全く気になりません。お互いに良い所を学び意見を交換していくのはまさに芸術の妙で、人を魅了してやみませんまん。
日本は伝統芸術をとても大切にすると稽古や討論の中で感じました。近年は台湾も伝統文化の保存や普及に力を入れ、伝承や保存のため芸術家や芸術団体が国際的な舞台に立てるようになりました。今の時代に生まれたことを私は幸せに思います。自国の伝統芸術を世界へ発信していけるのですから。
今回は神話『寶蓮燈』から、とても想像力をかきたてられる場面から目の離せないと同時に中華文化の色濃い物語を演じます。主人公は人間と仙女の間に生まれた少年沈香で、母親を救いたい一心で禁じられた天書を開いてバチが当たり、色白の美少年が真っ黒い顔に変わってしまいますが、同時に神通力も獲得して、叔父である二郎神との戦いの中で次々と法力を繰出します。人物像が明確で迅速なストーリー展開、後半の音楽との絶妙なアンサンブルはまさに布袋劇の魅力全開と言えます。また布袋劇の代表作であるこの作品は日本との合作にぴったりです。きめ細かい表現は言葉の壁を物ともせずに日本のお客さんに視覚的に魅力を伝えることができると思います。
8/29(月)朝早く私たちは台北駐日経済文化代表処台湾文化センターに行き、記者会見があるためリハーサルを行いました。
それは布袋戯「劈山救母」の公演に近づいていき、いよいよ最終成果を披露する意味します。コロナ禍でこの3年間リモートでリハーサルを行いました。今年6月末初めて困難を乗り越え、団長(音楽制作)をはじめ主演団員と共に、日本へ行きリハーサルを行いました。8/15から宣伝活動以外、リハーサルに集中し、すべてはより良い成果を披露したいためです。
台北駐日経済文化代表処台湾文化センターに招待され、8/29-10/13『指先に宿る命~台湾布袋戯の原点~』の特別展覧会を開催します。展覧会期間中9/9から毎週金曜日午後3時に、台湾伝統民俗物語をリメイクし、灯光を取り入れ視覚効果演出ある《白賊燈猴天借膽》の映像も放送する予定です。今回の展覧会と9/3-9/4の公演を通して、台湾伝統布袋戯の魅力をすべて見せ、日本の観客に台湾布袋戯をよく知っていただきます。
布袋戯「劈山救母」の監督は、座・高円寺の芸術総監督である佐藤信氏が就任していただきました。国際間の創り上げた作品をとし、台湾伝統布袋戯と日本伝統江戸糸あやつり人形と共演します。台湾の伝統芸術は言葉と文化の壁を突破し、新しい形と異文化間の演出で、現在海外の観客と向き合います。日本と台湾の伝統芸術を融合し、試しに創作してみました。
記者会見にて日本と台湾の人形は共演し、観客と来賓から高評価をいただきました。この日出席された記者も非常に多く、会見後も積極的に団長と主演団員をインタビューしました。また販売中のチケットも残りわずかだと聞き、更に自信をもってやろうと決心しました。9/3-9/4劇場でお会いしましょう!
9/5台湾へ帰国する日です。この20日間を振り返ってみて、たくさんの難しい任務をやり遂げました。コロナ禍で、この3年間、各事項についての相談、宣伝活動、台本の読み合わせ、稽古など、リモートだけで行いました。予定通りにスケジュールをこなしましたが、日本公演が本当に実行できるかどうか不安な気持ちでいっぱいです。モチベーションが下がらないように、臨機応変に行動していました。やっとビザを取得しました。第一段階クリア、(間に合わなかった人もいますが)、出発前のPCR検査で陰性、第二段階クリア、(PCR検査で不合格の団員もいますが)、無事に飛行機に乗って日本に到着しました。第三段階もクリアしました。日本に滞在する時、新型コロナウイルス感染症の拡大が続いて、ドキドキして気をつけようと言っていました。全ての任務を絶対にやり遂げようだけを考えていました。今回の日本公演は単に本劇団の公演イベントだけではなく、台湾を代表する外交活動です。
いろいろな宣伝活動(ワークショップ、講座、出演)を経て、記者会見の当日に言葉だけで表現できないほどとても興奮しました。すべてのイベントが成功して、各地から好評をいただいて、オファーも絶えません。私たちはパフォーマンスを通して、日本の観客の心を掴みました。日本のファンができました。嬉しい一方、反省と修正が必要なところもあります。鉄は熱いうちに打てと言われています。どうすれば日本のファンをもっと増やすか積極的に考えるべきです。
飛行機が松山空港に着陸し、日本ツアーが正式に終了しました。すべてのイベントが終わりましたが、お互いに絆を深めることができ、新しい1ページも始まりました。空港検疫の手続をして、名残惜しいですが、各自は隔離場所へ移動しました。3日間の隔離生活が終わって、やっと安心しました。全員無事に家に帰りました。第四段階もクリアしました。劇団全員でいろんな困難を乗り越えて、今回の経験を通して、更に勇気をもって前に進みます。手伝っていただいた台湾政府の関係者と先生方にも感謝いたします。皆さんがいなければ、すべては成功できません。これからも皆さんがくれたたっぷりの愛情を思いながら、大きな一歩を踏み出します!
2022/09/10
追伸
9/9中秋節三連休の初日、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターにて、《白賊燈猴天借膽》の布袋戯映像を上演する初日でもあります。上演前から初上演の日程についての問い合わせが多いと聞きました。当日台湾伝統布袋戯に興味を持っているたくさんの観客がお越しいただきました。ご来場いただいた方に感謝の気持ちを伝いたいので、事前に記念グッズも用意しました!
9/10杉並区交流協会(理事長井上泰孝氏)主催、杉並区役所共催の第10回目の台湾フェアにて、岸本区長のスピーチの中で、9/3杉並区の「座・高円寺」にて、台北木偶劇団と結城座の日本伝統江戸糸あやつり人形との共演舞台で、陽気な音楽と合わせて布袋戯の人形を生き生きとして操る公演を観て、印象的で感動していたことをおっしゃいました。オープニングセレモニー終了後、岸本区長と謝長廷大使と一緒にイベント会場を回って、台湾布袋戯の人形の展示スペースで本劇団が提供した布袋戯の人形を見かけて、人形を手に取って二人で操って遊びました。
隔離生活が終わる3日前、次の段階のために、新しいお仕事と計画を準備している時、日本公演が終わりましたが、このような嬉しいことも聞けて、とても興奮しています。舞台芸術は最も人々の心に残りやすいものです。文化外交の第一歩を踏み出して、とても光栄だと思います。鉄は熱いうちに打て、日本のファンをもっと増やして、大きな一歩を踏み出して進みましょう。